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真のプロフェッショナル・インストラクターとは
第2回コラム:「真の『受講者中心主義(learner-centered approach)』とは」

筆者紹介:
株式会社エイチ・アール・ディー研究所 専務取締役研究所長 安田孝雄 氏

沖電気工業 人材開発センタ営業教育グループ長、ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社 監査役、インストラクション部シニアコンサルタントを経て、2003年独立し現職。COOとして営業、開発、インストラクションの各部門を束ねて統括。関与企業延べ300社以上。研修におけるトレーナーの質の重要性について訴え続け、CTT+取得支援のために出版、講演、研修などに奔走中。所有資格:CTT+、CDAなど。
(株式会社エイチ・アール・ディー研究所についてはこちらからご覧ください。)

 

CTT+はインストラクターの「守・破・離の素」である、と第1回のコラムでご紹介させていただきました。CTT+には、インストラクターの型とも言えるスキルがすべて網羅されていますが、それだけに、スキルを正しくかつスピーディに修得するためには、個別のキーワードに惑わされるのではなく、CTT+の本質をとらえることが鍵となります。今回は、その本質の1つでありながら、何かと誤解されやすい考え方でもある、『受講者中心主義(learner-centered-approach』について考えてみたいと思います。

『受講者中心主義』という言葉だけを聞くと、「とにかく受講者に満足してもらうことが何よりも大切」という意味にもとらえることができます。たとえばですが、人材開発担当者の方なら、事後アンケートでの受講者の満足度に気をつかうのはもちろんのこと、美味しいお弁当をどこから提供するかということにまで頭を悩ませたりするかもしれません。インストラクターの方なら、受講者が少しでも疲れた表情をみせれば頻繁に休憩を入れたり、受講者が本来の授業とは全く関係のない質問をしてきてもすべて一生懸命答えたりしているかもしれません。もちろん、このようなことも決して間違っているわけではなく、大切なことです。しかし、「受講者の求めることには何でも応えてあげる」ということは、はたして真の『受講者中心主義』と言えるのでしょうか?

『受講者中心主義』は、CTT+のスキル評価基準の根底に一貫して流れていますが、この言葉が直接的に示されているのは、「4A:受講者中心の環境づくりと環境の維持」です。ここでは、「学習を促進する環境を作り、設定された学習目標を目指す」「受講者全員の有意義な参加を促す」「個人の権利を尊重する交流を促し、本題から外れたら元に戻すなど、肯定的な方法でグループダイナミクスを促進する」などが、インストラクターに求められる行動として定義されています。つまり、「受講者から求められることをすべて与える」のではなく、「受講者が学習目標に向かって自発的に学ぶように支援する」ことが、インストラクターの役割なのです。

『受講者中心主義』について、なんとなくイメージをもっていただけたのではないでしょうか?さて、ここからは、より深く皆さんにご理解いただけるように、「講師中心主義」との比較を交えながら、真の『受講者中心主義』について考えてみたいと思います。「講師中心主義」とは、受講者ではなく講師側の都合で研修を進めることを指しますから、一般的には、一方的にテキストを読みあげるような未熟な講師を想像されるかもしれません。しかし、実は、受講者に充分に満足してもらえる素晴らしい研修を提供しているにもかかわらず、「講師中心主義」になっているという場合もあるのです。世に言う「カリスマ型」の講師の研修でときどき見られるものです。

「講師中心主義のカリスマ講師」が扱う内容は、自分が得意なキラーコンテンツであり、話のネタと語り口は、ほれぼれとするほど見事です。常に受講者の関心を引き付けるため時事ネタを研究し、自分のコンテンツと結び付けることに長けています。彼らの責任範囲は、受講者の満足度とその場でのやる気の向上であるため、アンケートでの満足度評価は非常に高く、オール5であることも珍しくありません。

一方、『受講者中心主義』の講師が扱う内容は自分の得意分野ばかりでなく、企画側が意図する、受講者に必要とされるコンテンツです。彼らの魅力は受講者の自発性を引き出す能力です。常に受講者の業務に目を向け、学んでいるコンテンツをその業務に結び付けることに長けています。彼らの責任範囲は、事前に合意した学習目標を、受講者がどれだけ達成したかということですので、たとえ受講者の満足度が高くても、目標達成度が低ければ役割を果たしたことにはならないと自覚しています。

たとえ講師中心であっても、カリスマ講師レベルであれば、受講者に満足してもらうことはできますから、決して悪いことではありません。しかし、人材開発担当者の皆さんが育成するとしたら、どちらのタイプでしょう?あるいは、インストラクターの皆さんが目指すとすれば、どちらのタイプでしょう?私を含めて、ほとんどのインストラクターは、「カリスマ型」を目指すことはとても難しいのではないかと思います。しかし、CTT+が目指す『受講者中心主義』、それを実現するために定義されている12のスキル評価基準は、もちろんレベル自体は高いですが、多くの人が努力と経験によって身につけることができます。世界中には、数千人の、日本の中だけでも数百人のCTT+資格取得者が『受講者中心主義』を実践しているのです。

【「真のプロフェッショナル・インストラクターとは」コラム バックナンバー】
第1回コラム : 「CTT+はプロ・インストラクターの守・破・離の素〜人材開発部門への処方箋〜」

(参考)HRD研究所では、CTT+に準拠したインストラクター養成塾を開催しています。
http://www.hrdins.co.jp/seminar.html

 


 

 



 
 
 

 

 

 
 

 
 
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